きめんスーパーアリーナ
『きめんスーパーアリーナ』は、全天候型屋内競技場及びイベントホールです。20110701よりココログに再移行。http://kmnparty.way-nifty.com/manga/
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2010/08/08(日) 01:58 ベガルタ仙台
ベガルタ/【第17節】エンドレスエイト(長文)
OP:Super Driver

何かおかしい。

僕がそう気づき始めたのは、8月に入った夏真っ盛りの頃だった。
テレビでは、J2の昇格争いすら全く縁もゆかりもない県同士の、プロサッカーの試合が行われている。
最近はなかなか忙しく、ベガルタの試合も見に行けていない。ベガルタの試合を見てないのがいいのか悪いのか、よく分からないまま、夏の暑さを体感しつつ、アイスを食べていると、僕の携帯電話がけたたましく音を立てて、自己主張を始めた。

 「何だってんだ?」

そう思いながら電話に出ると、携帯電話の向こう側から騒がしい声が聞こえてきた。

 「あんた今日ヒマでしょ? 練習見にこいよ。いいね?」

こちらが確認する間も無く、電話は一方的に要件を告げて切れた。僕が唖然としていると、再び携帯が鳴った。躊躇しつつ出ると、

 「言い忘れたけど、あんたはなるべく車で来なさい」

電話は再び一方的に切れた。
知らんがな。遠いから車で行くけどさ。

練習場に着くと、すでにベガルタはいつも通り練習を始めていた。
なんら変わった様子はない。動きもしない人形相手にドリブルをして、シュートを枠の外に外すのも、見飽きたいつもの光景だ。

 「やあ、どうも」

小泉イエス樹と言うその男は、柔和な笑顔で僕に話しかけてきた。

 「楽しそうな光景ですね。テグヒさんも結構常識的な練習を身につけてきたと思いませんか?」

常識的ってなんだ? よく分からん。
あと、顔が近い。息を吹きかけるな。

 「ふふ。ああやって楽しんでいるテグヒさんなら、このJ1の世界をどうこうしようということはないでしょう」

そう笑顔で語っていたイエス樹の顔が突然曇る。

 「どうした?」
 「いえ…。多分僕の思い過ごしです。春の開幕からいろいろあったので、ちょっと神経質になっているんでしょう」

そう笑うイエス樹の顔には、影があるように思えた。
僕がふと練習場の脇を見ると、芝の上に座り込んでいるナカシユキの姿が見えた。普段は無表情なその真っ黒な顔が、妙に疲れているというか、つまらないといった風に見えた。

 「じゃあ今日はこれで練習終了ね。各自次の試合に向けてゆっくりと休むこと」

テグヒの号令で、その日の練習は解散となった。
選手が三々五々クラブハウスに向かっていく中、僕はユキに声をかけた。

 「ナカシ!」
 「…」

無言の無表情が僕を見返す。無機の双眸が、黒い顔の上で見開かれていた。
呼び止めたはいいが、僕は何をしゃべっていいのか戸惑っていた。そこまで考えて呼び止めろよ。僕は軽く狼狽した。

 「いや…。最近どうだ。元気でやってるか?」
 「…少し骨折した」
 「そりゃあ、お大事に」
 「…そう」

結局言葉は続かず、適当にお茶を濁してその場は分かれた。
そもそも、なんで僕はナカシを呼び止めたのか?
分からない。
自分自身の行動に疑問を思いつつ、僕は帰宅の途についた。

次の日はフィジカルトレーニングだった。
ジリジリと焼き付けるような日差しの中、ベガルタの選手たちは黙々とメニューをこなしている。別に不思議なところもない。違和感もない。
常連のおばちゃんは日傘をさしながら「采配が良くない」だの言い合い、常連の飲み屋のマスターは「次もAWAY行きますよ」と笑顔で言っていた。

夏で、夏だった。

その日の夜、僕は奇妙な電話で目を覚ますことになる。
深夜、暑苦しい中ようやくウトウトと眠りにつきかけた瞬間、僕の携帯電話が鳴った。眠い目を擦りながら電話に出る。

 「うぁい、もしもしぃ?」
 「…ううぅ(しくしく)…ううぅ」

女の泣き声だった。全身の血の気が引くほど一瞬で目が覚めた。なんだ? 稲川淳二の怪談の配達はお願いしてないはずだが。

 「…ううぅ、キメョンくん…」
 「いづみるさん?」

もう、元ネタが誰なんだかよく分からない名前を叫びながら、僕は電話に答える。

 「…うぅ、大変良くないことが…うぅ」
 「もしもし、何があったんですか?

僕が聞き返すと、

 「どうも、イエス樹です」
 「なんでお前がそこにいる?」
 「ちょっと緊急事態でして。出来ればあなたにも来ていただきたいのですが、よろしいですか?」

良いも悪いもない。
僕は一目散に原チャリを飛ばし、近所の七北田公園に向かった。

 「簡単に言うとですね、僕らは同じ時間を延々とループしてるんです」

全然簡単じゃない。お前は何を言っている?

 「我々は同じことを、もう何回も繰り返しているということです。4月11日から、今日までね」
 「同じことの繰り返し?」
 「はい、決して勝ち試合を見ることの出来ない、エンドレスサマーです。この世界には勝利がない。いつまで経っても、ベガルタに勝ち点3は入ってこないのです。そして、記憶はその都度リセットされて、次の試合に向かうというわけです」
 「それを誰が信じるというんだ?」
 「せめてあなたには信じて欲しいですね。テグヒさんに言うわけにも行きませんし」

イエス樹がお得意の肩をすくめるポーズで「やれやれ」といった表情を見せる。
僕は確認を取るために、ヒューマノイドインターフェースに問いかける。

 「それで、僕たちは何回くらい同じ時間を過ごしているんだ?」

ユキは平気な顔で答えた。

 「今回が12試合目に該当する」

思わずクラリときた。
12試合? 12試合も勝ちが無いだって? そんなのサポーターだったら正気じゃいられない。降格枠へ一直線だ。一体何がどうなっている?

 「それはマジな話なのか?」
 「そう」

まんじりともせず、ユキは言った。

 「そうするとつまりあれか? 僕達は毎回、同じように勝ちの無い試合を応援していると言うことか?」
 「必ずしもそうではない」

否定とも肯定とも述べず、ユキは続けた。

 「12回の試合において、関口が先発しなかった試合が2試合ある。梁勇基は今のところ全試合出場している。フェルナンジーニョは7試合に先発して2ゴール決めている。他には…」
 「分かった、もういい」

僕は説明を半ば強制的にやめさせた。どうやら、勝っていないのは本当らしい。
しかも12試合も続けて。
これはもし、僕らが記憶をリセットされていなければ、狂人となっててもおかしくは無いだろう。いや、もしかしたら世界のどこかには記憶のリセットを免れたやつらがいて、そいつらが声高々に
 「ブーイングしろ!」
 「選手に物投げろ!」
 「バス囲め!」
 「もう降格しちまえ!」
 「監督解任だ!」
と、騒ぎ立てているかもしれない。
そう考えるだけでも恐ろしい。記憶をリセットされている僕らはまだ、救われているほうなのかもしれない。

 「恐らくテグヒさんは、何らかの理由でこの勝ちの無い状態を抜け出したくないと、無意識化で思っているのです。だからループしているのでしょう」

誰だって勝ちから抜け出たいはずだし、その発想はなんかおかしくないか? 強引にもほどがある。
僕らは結局その日、なんの解決策も見出せないまま、解散した。

そして横浜Fマリノス戦。

敗戦を喫した僕らはテグヒを囲む形で喫茶店にいた。
テグヒは自分のやりたいこと、やりたいフォーメーションを書いた紙にチェックをつけていた。

 「まあこんなものかな?」

テグヒはやることはやった、みたいな表情で満足げに僕らに顔を向けている。

 「何かほかにやりたいことある? まあ今シーズンはJ1でいろいろやれてるしね。また今度練習場で考えよう。じゃあ今日は解散」

そういうとテグヒは席を立ち、出口に向かっていった。

いや、待てよテグヒ。
このままじゃダメなんだ。また同じことの繰り返しなんだ。
そう思い呼び止めようとするが、言葉が出てこない。そんな僕を襲う強烈な既視感。この感覚は、前にも感じたことがある。
呼び止めろ、テグヒを呼び止めろ。出なければ、また同じことの繰り返しだ。
だが何をすればいいんだ? だめだ。思いつかない。

 「ありがとうございましたぁ」

カランコロンと言う喫茶店のドアが閉まる音にあわせ、店員さんが挨拶をする。
テグヒのいなくなった店内に、相手サポの歌う「コーヒールンバ」が流れていた。

8月7日。
勝ち点3、手付かず。
もうしらん。どうにでもなれだ。
もしまた同じことを繰り返すんなら、ブーイングなんかやったって仕方ないしな。
勝ち試合が来るか来ないか、それは記憶をリセットされた、次の試合の自分に任せればいいか。

今日はもう寝てしまおう。

ED:止マレ!
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コメント:2 トラックバック:0

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コメント一覧
きめん
名無しさん
> 何でもかんでもテグヒだけのせいですか、そうですか。

mixi経由か知りませんが、通りすがりにわざわざどうも。
貴殿がコメントをつけた日記は、2度目のエンドレスエイトです。もしガンバに勝てなければ、3度目もあるかもしれません。
まあそういうことです。
URL 【 2010/08/10 01:48 】 編集
空欄さん
何でもかんでもテグヒだけのせいですか、そうですか。
URL 【 2010/08/09 22:18 】 編集
 
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